「投稿者: magoroku@tnnt」の記事一覧

一平氏に—– 岡本かの子
 そちらのお座敷にはもうそろそろ西陽が射す頃で御座いませう? 鋭い斜光線の直射があなたのお机のわき…
異性に対する感覚を洗練せよ—– 岡本かの子
現代の女性の感覚は色調とか形式美とか音とかに就《つ》いて著《いちじ》るしく発達して来た。全《あら》…
異国食餌抄—– 岡本かの子
 夕食前の小半時《こはんとき》、巴里《パリ》のキャフェのテラスは特別に混雑する。一日の仕事が一段落…
愛よ愛—– 岡本かの子
 この人のうえをおもうときにおもわず力が入る。この人とのくらしに必要なわずらわしき日常生活もいやな…
愛—– 岡本かの子
 その人にまた逢《あ》ふまでは、とても重苦しくて気骨《きぼね》の折れる人、もう滅多《めった》には逢…
みちのく—– 岡本かの子
 桐《きり》の花の咲《さ》く時分であった。私は東北のSという城下町の表通りから二側目《ふたかわめ》…
バットクラス—– 岡本かの子
 スワンソン夫人は公園小路《パークレーン》の自邸で目が覚めた。彼女は社交季節が来ると、倫敦《ロンド…
とと屋禅譚—— 岡本かの子
        一  明治も改元して左程《さほど》しばらく経たぬ頃、魚河岸《うおがし》に白魚と鮎《あ…
ドーヴィル物語—– 岡本かの子
   一 日本留学生小田島春作は女友イベットに呼び寄せられ、前夜|晩《おそ》く巴里《パリ》を発《た》…
ガルスワーシーの家———- 岡本かの子
 ロンドン市の北郊ハムステットの丘には春も秋もよく太陽が照り渡った。此《こ》の殆《ほと》んど何里四…
かの女の朝—– 岡本かの子
 K雑誌先月号に載ったあなたの小説を見ました。ママの処女作というのです ね、これが。ママの意図《いと…
おせっかい夫人—– 岡本かの子
 午前十一時半から十二時ちょっと過ぎまでの出来事です。うらうらと晴れた春の日の暖気に誘われて花子夫…
ある男の死—– 岡本かの子
 A! 女学校では、当時有名な話でありました。それは 『二時間目事件。』  といふのでした。  新学期…
蠅——横光利一
      一   真夏の宿場は空虚であった。ただ眼の大きな一疋《いっぴき》の蠅だけは、薄暗い厩《う…
罌粟《けし》の中——横光利一
 しばらく芝生の堤が眼の高さでつづいた。波のように高低を描いていく平原のその堤の上にいちめん真紅の…
旅愁—–横光利一
家を取り壊した庭の中に、白い花をつけた杏の樹がただ一本立っている。復活祭の近づいた春寒い風が河岸か…
洋灯—–横光利一
このごろ停電する夜の暗さをかこっている私に知人がランプを持って来てくれた。高さ一尺あまりの小さな置…
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)—–横光利一
 八月――日  駈けて来る足駄《あしだ》の音が庭石に躓《つまず》いて一度よろけた。すると、柿の木の下へ…
黙示のページ—–横光利一
終始末期を連続しつつ、愚な時計の振り子の如く反動するものは文化である。かの聖典黙示の頁に埋れたまま…
盲腸—–横光利一
Fは口から血を吐いた。Mは盲腸炎で腹を切つた。Hは鼻毛を抜いた痕から丹毒に浸入された。此の三つの報…