「投稿者: magoroku@tnnt」の記事一覧

無常の風—–横光利一
 幼い頃、「無常の風が吹いて来ると人が死ぬ」と母は云つた。それから私は風が吹く度に無常の風ではない…
夢もろもろ—–横光利一
    夢  私の父は死んだ。二年になる。  それに、まだ私は父の夢を見たことがない。     良い夢…
父—–横光利一
 雨が降りさうである。庭の桜の花が少し凋れて見えた。父は夕飯を済ませると両手を頭の下へ敷いて、仰向…
琵琶湖—–横光利一
 思ひ出といふものは、誰しも一番夏の思ひ出が多いであらうと思ふ。私は二十歳前後には、夏になると、近…
微笑—–横光利一
 次の日曜には甲斐《かい》へ行こう。新緑はそれは美しい。そんな会話が擦れ違う声の中からふと聞えた。…
碑文—–横光利一
雨は降り続いた。併し、ヘルモン山上のガルタンの市民は、誰もが何日太陽を眺め得るであらうかと云ふ予想…
比叡《ひえい》——横光利一
 結婚してから八年にもなるのに、京都へ行くというのは定雄夫妻にとって毎年の希望であった。今までにも…
犯罪——横光利一
 私は寂しくなつて茫然と空でも見詰めてゐる時には、よく無意識に彼女の啼声を口笛で真似てゐた。すると…
日輪—–横光利一
     序章  乙女《おとめ》たちの一団は水甕《みずがめ》を頭に載《の》せて、小丘《こやま》の中腹…
南北—–横光利一
一  村では秋の収穫時が済んだ。夏から延ばされていた消防慰労会が、寺の本堂で催された。漸《ようや》く…
頭ならびに腹——横光利一
真昼である。特別急行列車は満員のまま全速力で馳けてゐた。沿線の小駅は石のやうに黙殺された。  とにか…
冬の女——横光利一
 女が一人|籬《まがき》を越してぼんやりと隣家の庭を眺めてゐる。庭には数輪の寒菊が地の上を這ひなが…
鳥——-横光利一
 リカ子《こ》はときどき私《わたし》の顔《かお》を盗見《ぬすみみ》するように艶《つや》のある眼《め…
赤い着物—–横光利一
村の点燈夫《てんとうふ》は雨の中を帰っていった。火の点《つ》いた献灯《けんとう》の光りの下で、梨《…
静かなる羅列—–横光利一
    一  Q川はその幼年期の水勢をもつて鋭く山壁を浸蝕した。雲は濃霧となつて溪谷を蔽つてゐた。 …
睡蓮《すいれん》—–横光利一
もう十四年も前のことである。家を建てるとき大工が土地をどこにしようかと相談に来た。特別どこが好きと…
厨房《ちゅうぼう》日記—–横光利一
 こういう事があったと梶《かじ》は妻の芳江に話した。東北のある海岸の温泉場である。梶はヨーロッパを…
神馬—–横光利一
豆台の上へ延ばしてゐた彼の鼻頭へ、廂から流れた陽の光りが落ちてゐた。鬣が彼の鈍つた茶色の眼の上へ垂…
榛名—–横光利一
眞夏の日中だのに褞袍《どてら》を着て、その上からまだ毛絲の肩掛を首に卷いた男が、ふらふら汽車の中に…
新感覚論 感覚活動と感覚的作物に対する非難への逆説—–横光利一
独断  芸術的効果の感得と云うものは、われわれがより個性を尊重するとき明瞭に独断的なものである。従っ…