「投稿者: magoroku@tnnt」の記事一覧

健康三題—– 岡本かの子
     はつ湯  男の方は、今いう必要も無いから別問題として、一体私は女に好かれる素質を持って居た…
決闘場—– 岡本かの子
 ロンドンの北隅ケンウッドの森には墨色で十数丈のシナの樹や、銀色の楡《にれ》の大樹が逞《たく》まし…
兄妹—– 岡本かの子
    ――二十余年前の春  兄は第一高等学校の制帽をかぶっていた。上質の久留米絣《くるめがすり》の羽…
愚なる(?!)母の散文詩—— 岡本かの子
 わたしは今、お化粧をせつせとして居ます。  けふは恋人のためにではありません。  あたしの息子太郎…
愚かな男の話—– 岡本かの子
「或る田舎に二人の農夫があった。両方共農作自慢の男であった。或る時、二人は自慢の鼻突き合せて喋《し…
金魚撩乱—– 岡本かの子
今日も復一はようやく変色し始めた仔魚《しぎょ》を一|匹《ぴき》二|匹《ひき》と皿《さら》に掬《すく…
気の毒な奥様—— 岡本かの子
 或る大きな都会の娯楽街《アミューズメントセンター》に屹立《きつりつ》している映画殿堂では、夜の部…
汗 ——岡本かの子
 ――お金が汗をかいたわ。」  河内屋の娘の浦子はさういつて松崎の前に掌《てのひら》を開いて見せた。ロ…
褐色の求道—– 岡本かの子
 独逸《ドイツ》に在る唯一の仏教の寺だという仏陀寺《ブッダハウス》へ私は伯林《ベルリン》遊学中三度…
街頭 (巴里のある夕)——- 岡本かの子
 二列に並んで百貨店ギャラレ・ラファイエットのある町の一席を群集は取巻いた。中には雨傘の用意までし…
快走—– 岡本かの子
 中の間で道子は弟の準二の正月着物を縫《ぬ》い終って、今度は兄の陸郎の分を縫いかけていた。 「それお…
過去世—– 岡本かの子
池は雨中の夕陽の加減で、水銀のやうに縁だけ盛り上つて光つた。池の胴を挟んでゐる杉木立と青|蘆《あし…
花は勁し—– 岡本かの子
 青みどろを溜めた大硝子箱の澱んだ水が、鉛色に曇つて来た。いままで絢爛に泳いでゐた二つのキヤリコの…
河明り—– 岡本かの子
 私が、いま書き続けている物語の中の主要人物の娘の性格に、何か物足りないものがあるので、これはいっ…
家霊—– 岡本かの子
 山の手の高台で電車の交叉点になっている十字路がある。十字路の間からまた一筋細く岐《わか》れ出て下…
家庭愛増進術 ―型でなしに—– 岡本かの子
 わたくしは自分|達《たち》を夫とか妻とか考えません。  同棲《どうせい》する親愛なそして相憐《あい…
夏の夜の夢—– 岡本かの子
 月の出の間もない夜更けである。暗さが弛《ゆる》んで、また宵が来たやうなうら懐かしい気持ちをさせる…
岡本一平論 ―親の前で祈祷—- 岡本かの子
「あなたのお宅の御主人は、面白い画《え》をお描《か》きになりますね。嘸《さぞ》おうちのなかも、いつ…
越年—– 岡本かの子
 年末のボーナスを受取って加奈江が社から帰ろうとしたときであった。気分の弾《はず》んだ男の社員達が…
英国メーデーの記—– 岡本かの子
 倫敦に於ける五月一日は新聞の所謂「赤」一党のみが辛うじてメーデーを維持する。  それさへ華やかに趣…