「2019年5月」の記事一覧

星—– 岡本かの子
 晴れた秋の夜は星の瞬きが、いつもより、ずつとヴイヴイツトである。殊に月の無い夜は星の光が一層燦然…
雛妓 —–岡本かの子
 なに事も夢のようである。わたくしはスピードののろい田舎の自動車で街道筋を送られ、眼にまぼろし[#…
新時代女性問答—– 岡本かの子
一平 兎《と》に角《かく》、近代の女性は型がなくなった様《よう》だね。 かの子 形の上でですか、心の…
唇草—– 岡本かの子
 今年の夏の草花にカルセオラリヤが流行《はや》りそうだ。だいぶ諸方に見え出している。この間花屋で買…
食魔—– 岡本かの子
 菊萵苣《きくぢさ》と和名はついているが、原名のアンディーヴと呼ぶ方が食通の間には通りがよいようで…
上田秋成の晩年—– 岡本かの子
文化三年の春、全く孤独になつた七十三の翁《おきな》、上田秋成は京都南禅寺内の元の庵居《あんきょ》の…
小町の芍薬—– 岡本かの子
 根はかち/\の石のやうに朽ち固つてゐながら幹からは新枝を出し、食べたいやうな柔かい切れ込みのある…
小学生のとき与へられた教訓—– 岡本かの子
 或る晴れた秋の日、尋常科の三年生であつた私は学校の運動場に高く立つてゐる校旗棒を両手で握つて身を…
勝ずば —–岡本かの子
 夜明けであった。隅田川以東に散在する材木堀の間に挟まれた小さな町々の家並みは、やがて孵化《ふか》…
女性崇拝—– 岡本かの子
西洋人は一体《いったい》に女性尊重と見做《みな》されているが、一概《いちがい》にそうも言い切れない…
女性の不平とよろこび—— 岡本かの子
女が、男より行儀をよくしなければならないということ。  人前で足を出してはいけない、欠伸《あくび》を…
女性と庭—– 岡本かの子
出入りの植木屋さんが廻つて来て、手が明いてますから仕事をさして欲しいと言ふ。頼む。自分の方の手都合…
初夏に座す—– 岡本かの子
人生の甘酸を味はひ分けて来るほど、季節の有難味が判つて来る。それは「咲く花時を違へず」といつた――季…
処女時代の追憶 断片三種 —–岡本かの子
     ○  処女時代の私は、兄と非常に密接して居ました。兄に就いていろいろの思ひ出があります。十…
春 ―二つの連作―—– 岡本かの子
(一) 一  加奈子は気違いの京子に、一日に一度は散歩させなければならなかった。でも、京子は危くて独り…
縮緬のこころ—– 岡本かの子
 おめしちりめんといふ名で覚えてゐる――それでつくられてゐた明治三十年代、私の幼年時代のねんねこ[#…
酋長—– 岡本かの子
 朝子が原稿を書く為に暮れから新春へかけて、友達から貸りた別荘は、東京の北|端《はず》れに在った。…
秋雨の追憶—– 岡本かの子
 十月初めの小雨の日茸狩りに行つた。山に這入ると松茸の香がしめつた山氣に混つて鼻に泌みる。秋雨の山…
秋の夜がたり—— 岡本かの子
 中年のおとうさんと、おかあさんと、二十歳前後のむすこと、むすめの旅でありました。  旅が、旅程の丁…
秋の七草に添へて—- 岡本かの子
萩、刈萱、葛、撫子、女郎花、藤袴、朝顔。  これ等の七種の草花が秋の七草と呼ばれてゐる。この七草の種…