「2019年5月」の記事一覧

父の葬式—– 葛西善蔵
 いよいよ明日は父の遺骨を携《たずさ》えて帰郷という段になって、私たちは服装のことでちょっと当惑を…
父の出郷—– 葛西善蔵
 ほんのちょっとしたことからだったが、Fを郷里の妻の許《もと》に帰してやる気になった。母や妹たちの…
浮浪—– 葛西善蔵
     一 「また今度も都合で少し遅くなるかも知れないよ。どこかへ行つて書いて来るつもりだから……」…
不良兒—– 葛西善藏
 一月末から一ヶ月半ほど、私は東京に出てゐた。こんなことは今度が初めてと云ふわけではないので、私は…
遁走—— 葛西善蔵
一  神田のある会社へと、それから日比谷の方の新聞社へ知人を訪ねて、明日の晩の笹川の長編小説出版記念…
椎の若葉—— 葛西善藏
 六月半ば、梅雨晴《つゆば》れの午前の光りを浴びてゐる椎《しひ》の若葉の趣《おもむき》を、ありがた…
死児を産む—– 葛西善蔵
 この月の二十日前後と産婆に言われている大きな腹して、背丈がずんぐりなので醤油樽《しょうゆだる》か…
子をつれて—– 葛西善藏
一  掃除をしたり、お菜《さい》を煮たり、糠味噌を出したりして、子供等に晩飯を濟まさせ、彼はやうやく…
湖畔手記—– 葛西善藏
 たうとうこゝまで逃げて來たと云ふ譯だが――それは實際悲鳴を揚げながら――の氣持だつた。がさて、これか…
血を吐く—– 葛西善藏
おせいが、山へ來たのは、十月二十一日だつた。中禪寺からの、夕方の馬車で着いたのだつた。その日も自分…
奇病患者—– 葛西善藏
 薪の紅く燃えてゐる大きな爐の主座《よこざ》に胡坐を掻いて、彼は手酌でちび/\盃を甞めてゐた。その…
贋物 —–葛西善蔵
一  車掌に注意されて、彼は福島で下車した。朝の五時であった。それから晩の六時まで待たねばならないの…
哀しき父—– 葛西善藏
       一  彼はまたいつとなくだん/\と場末へ追ひ込まれてゐた。  四月の末であつた。空には…
おせい—– 葛西善藏
「近所では、お腹《なか》の始末でもしに行つたんだ位に思つてゐるんでせう。さつきも柏屋のお内儀さんに…
筧の話—– 梶井基次郎
 私は散歩に出るのに二つの路を持っていた。一つは渓《たに》に沿った街道で、もう一つは街道の傍から渓…
檸檬—– 梶井基次郎
 えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終|圧《おさ》えつけていた。焦躁《しょうそう》と言おうか、嫌…
奎吉—– 梶井基次郎
「たうとう弟にまで金を借りる樣になつたかなあ。」と奎吉は、一度思ひついたら最後の後悔の幕迄行つて見…
路上—– 梶井基次郎
 自分がその道を見つけたのは卯《う》の花の咲く時分であった。  Eの停留所からでも帰ることができる。…
矛盾の樣な眞實—–梶井基次郎
「お前は弟達をちつとも可愛がつてやらない。お前は愛のない男だ。」  父母は私によくそ[#「そ」に「(…
橡の花 ――或る私信―― ——梶井基次郎
一  この頃の陰鬱な天候に弱らされていて手紙を書く気にもなれませんでした。以前京都にいた頃は毎年のよ…