「2019年」の記事一覧

詩集『花電車』序—– 横光利一
 今まで、私は詩集を読んでゐて、涙が流れたといふことはない。しかし、稀らしい。私はこの「花電車」を…
作家の生活—– 横光利一
 優れた作品を書く方法の一つとして、一日に一度は是非自分がその日のうちに死ぬと思うこと、とジッドは…
御身—– 横光利一
     一 末雄が本を見ていると母が尺《さし》を持って上って来た。  「お前その着物をまだ着るかね…
機械—– 横光利一
 初めの間は私は私の家の主人が狂人ではないのかとときどき思った。観察しているとまだ三つにもならない…
街の底—– 横光利一
 その街角には靴屋があった。家の中は壁から床まで黒靴で詰っていた。その重い扉のような黒靴の壁の中で…
花園の思想—– 横光利一
    一 丘の先端の花の中で、透明な日光室が輝いていた。バルコオンの梯子《はしご》は白い脊骨のよう…
火—– 横光利一
     一 初秋の夜で、雌《めす》のスイトが縁側《えんがわ》の敷居《しきい》の溝の中でゆるく触角を…
汚ない家—– 横光利一
 地震以後家に困つた。崩れた自家へ二ヶ月程して行つてみたら、誰れだか知らない人が這入つてゐた。表札…
一条の詭弁—– 横光利一
 その夫婦はもう十年も一緒に棲んで来た。良人は生活に窶れ果てた醜い細君の容子を眺める度に顔が曇つた…
マルクスの審判—– 横光利一
 市街を貫いて来た一条の道路が遊廓街へ入らうとする首の所を鉄道が横切つてゐる。其処は危険な所だ。被…
ナポレオンと田虫—– 横光利一
            一  ナポレオン・ボナパルトの腹は、チュイレリーの観台の上で、折からの虹《に…
猥褻独問答—– 永井荷風
○猥褻なる文学絵画の世を害する事元より論なし。書生猥褻なる小説を手にすれば学問をそつちのけにして下女…
霊廟—– 永井荷風
〔Il suffit que tes eaux e'gales et sans fe^te〕 〔Reposent dans leur ordre et tranquillite',〕 〔S…
里の今昔—– 永井荷風
昭和二年の冬、酉《とり》の市《いち》へ行った時、山谷堀《さんやぼり》は既に埋められ、日本堤《にほん…
裸体談義—– 永井荷風
 戦争後に流行しだしたものの中には、わたくしのかつて予想していなかったものが少くはない。殺人|姦淫…
羊羹 ——永井荷風
 新太郎はもみぢといふ銀座裏の小料理屋に雇はれて料理方の見習をしてゐる中、徴兵にとられ二年たつて歸…
洋服論———- 永井荷風
○日本人そもそも洋服の着始めは旧幕府|仏蘭西《フランス》式歩兵の制服にやあらん。その頃膝取マンテルな…
矢立のちび筆—– 永井荷風
 或人《あるひと》に答ふる文《ぶん》  思へば千九百七、八年の頃のことなり。われ多年の宿望を遂げ得て…
矢はずぐさ—– 永井荷風
(例)寒夜客来[#(テ)]茶当[#(ツ)][#レ]酒[#(ニ)] 一 『矢筈草《やはずぐさ》』と題し…
壥東綺譚—–永井荷風
一  わたくしは殆ど活動写真を見に行ったことがない。  おぼろ気な記憶をたどれば、明治三十年頃でもあ…