「2019年」の記事一覧

犯罪——横光利一
 私は寂しくなつて茫然と空でも見詰めてゐる時には、よく無意識に彼女の啼声を口笛で真似てゐた。すると…
日輪—–横光利一
     序章  乙女《おとめ》たちの一団は水甕《みずがめ》を頭に載《の》せて、小丘《こやま》の中腹…
南北—–横光利一
一  村では秋の収穫時が済んだ。夏から延ばされていた消防慰労会が、寺の本堂で催された。漸《ようや》く…
頭ならびに腹——横光利一
真昼である。特別急行列車は満員のまま全速力で馳けてゐた。沿線の小駅は石のやうに黙殺された。  とにか…
冬の女——横光利一
 女が一人|籬《まがき》を越してぼんやりと隣家の庭を眺めてゐる。庭には数輪の寒菊が地の上を這ひなが…
鳥——-横光利一
 リカ子《こ》はときどき私《わたし》の顔《かお》を盗見《ぬすみみ》するように艶《つや》のある眼《め…
赤い着物—–横光利一
村の点燈夫《てんとうふ》は雨の中を帰っていった。火の点《つ》いた献灯《けんとう》の光りの下で、梨《…
静かなる羅列—–横光利一
    一  Q川はその幼年期の水勢をもつて鋭く山壁を浸蝕した。雲は濃霧となつて溪谷を蔽つてゐた。 …
睡蓮《すいれん》—–横光利一
もう十四年も前のことである。家を建てるとき大工が土地をどこにしようかと相談に来た。特別どこが好きと…
厨房《ちゅうぼう》日記—–横光利一
 こういう事があったと梶《かじ》は妻の芳江に話した。東北のある海岸の温泉場である。梶はヨーロッパを…
神馬—–横光利一
豆台の上へ延ばしてゐた彼の鼻頭へ、廂から流れた陽の光りが落ちてゐた。鬣が彼の鈍つた茶色の眼の上へ垂…
榛名—–横光利一
眞夏の日中だのに褞袍《どてら》を着て、その上からまだ毛絲の肩掛を首に卷いた男が、ふらふら汽車の中に…
新感覚論 感覚活動と感覚的作物に対する非難への逆説—–横光利一
独断  芸術的効果の感得と云うものは、われわれがより個性を尊重するとき明瞭に独断的なものである。従っ…
新感覚派とコンミニズム文学—–横光利一
コンミニズム文学の主張によれば、文壇の総《すべ》てのものは、マルキストにならねばならぬ、と云うので…
上海—– 横光利一
一  満潮になると河は膨《ふく》れて逆流した。測候所のシグナルが平和な風速を示して塔の上へ昇っていっ…
笑われた子—– 横光利一
 吉をどのような人間に仕立てるかということについて、吉の家では晩餐《ばんさん》後毎夜のように論議せ…
純粋小説論—– 横光利一
 もし文芸復興というべきことがあるものなら、純文学にして通俗小説、このこと以外に、文芸復興は絶対に…
春は馬車に乗って—– 横光利一
 海浜の松が凩《こがらし》に鳴り始めた。庭の片隅《かたすみ》で一叢《ひとむら》の小さなダリヤが縮ん…
七階の運動—– 横光利一
 今日は昨日の続きである。エレベーターは吐瀉を続けた。チヨコレートの中へ飛び込む女。靴下の中へ潜つ…
時間—– 横光利一
 私達を養っていてくれた座長が外出したまま一週間しても一向に帰って来ないので、或る日高木が座長の残…