「2019年」の記事一覧

放水路—– 永井荷風
隅田川《すみだがわ》の両岸は、千住《せんじゅ》から永代《えいたい》の橋畔《きょうはん》に至るまで、…
買出し—– 永井荷風
 船橋と野田との間を往復してゐる総武鉄道の支線電車は、米や薩摩芋の買出しをする人より外にはあまり乗…
梅雨晴—– 永井荷風
 森先生の渋江抽斎《しぶえちゅうさい》の伝を読んで、抽斎の一子|優善《やすよし》なるものがその友と…
日和下駄 一名 東京散策記—–永井荷風
序 東京市中散歩の記事を集めて『日和下駄』と題す。そのいはれ本文のはじめに述べ置きたれば改めてここに…
伝通院—–永井荷風
われわれはいかにするともおのれの生れ落ちた浮世の片隅を忘れる事は出来まい。  もしそれが賑《にぎやか…
虫干—–永井荷風
毎年《まいねん》一度の虫干《むしぼし》の日ほど、なつかしいものはない。  家中《うちぢゆう》で一番広…
蟲の聲—–永井荷風
東京の町に生れて、そして幾十年といふ長い月日をこゝに送つた………。  今日まで日々の生活について、何の…
男ごゝろ—–永井荷風
大方帳場の柱に掛けてある古時計であらう。間の抜けた力のない音でボンボンと鳴り出すのを聞きつけ、友田…
草紅葉——永井荷風
東葛飾《ひがしかつしか》の草深いあたりに仮住《かりずま》いしてから、風のたよりに時折東京の事を耳に…
雪の日—–永井荷風
曇って風もないのに、寒さは富士おろしの烈しく吹きあれる日よりもなお更身にしみ、火燵《こたつ》にあた…
西瓜——永井荷風
 持てあます西瓜《すいか》ひとつやひとり者  これはわたくしの駄句である。郊外に隠棲している友人が或…
正宗谷崎両氏の批評に答う—–永井荷風
去年の秋、谷崎君がわたくしの小説について長文の批評を雑誌『改造』に載せられた時、わたくしはこれに答…
水 附渡船—– 永井荷風
仏蘭西人《フランスじん》ヱミル・マンユの著書都市美論の興味ある事は既にわが随筆「大窪《おほくぼ》だ…
申訳 —–永井荷風
 昭和二年の雨ばかり降りつづいている九月の末から十月のはじめにかけて、突然僕の身の上に、種類のちが…
深川の散歩—– 永井荷風
中洲《なかず》の河岸《かし》にわたくしの旧友が病院を開いていたことは、既にその頃の『中央公論』に連…
深川の唄—– 永井荷風
一  四谷見付《よつやみつけ》から築地両国行《つきじりょうごくゆき》の電車に乗った。別に何処《どこ》…
妾宅 —–永井荷風
一  どうしても心から満足して世間一般の趨勢に伴《ともな》って行くことが出来ないと知ったその日から、…
書かでもの記—– 永井荷風
一  身をせめて深く懺悔《ざんげ》するといふにもあらず、唯|臆面《おくめん》もなく身の耻とすべきこと…
十六、七のころ—– 永井荷風
 十六、七のころ、わたくしは病のために一時学業を廃したことがあった。もしこの事がなかったなら、わた…
十日の菊—– 永井荷風
  一 庭の山茶花《さざんか》も散りかけた頃である。震災後家を挙げて阪地に去られた小山内《おさない》…