国枝史郎 全体主義—– 国枝史郎 全体主義とか全体主義国家とかいうことが盛んに云われている。日本が全体主義国家であるか無いかに就いては私は云わない。いや、むしろ、日本の国を、全体主義というような、外国伝来の言葉をもって範疇づけることは、その特殊の国体から云って不当であろうと... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 善悪両面鼠小僧—– 国枝史郎 乃信姫に見とれた鼠小僧 「曲者《くせもの》!」という女性《じょしょう》の声。 しばらくあって入り乱れる足音。 「あっちでござる!」 「いやこっちじゃ!」 宿直《とのい》の武士の犇き合う声。 文政《ぶんせい》末年春三月、桜の花の真っ盛り... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 前記天満焼—— 国枝史郎 1 ここは大阪|天満通《てんまとおり》の大塩中斎《おおしおちゅうさい》の塾である。 今講義が始まっている。 「王陽明の学説は、陸象山から発している。その象山の学説は、朱子の学から発している。周濂溪《しゅうれんけい》、張横渠《ちょうおうき... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 染吉の朱盆—— 国枝史郎 一 ぴかり! 剣光! ワッという悲鳴! 少し間を置いてパチンと鍔音。空には満月、地には霜。[#底本ではこの段落は1字下げになっている] 切り仆《たお》したのは一人の武士、黒の紋付、着流し姿、黒頭巾で顔を包んでいる。お誂え通りの辻切... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 赤坂城の謀略—— 国枝史郎 一 (これは駄目だ) と正成《まさしげ》は思った。 (兵糧が尽き水も尽きた。それに人数は僅か五百余人だ。然るに寄手《よせて》の勢と来ては、二十万人に余るだろう。それも笠置を落城させて、意気軒昂たる者共だ。しかも長期の策を執《と》り、この城... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 赤格子九郎右衛門の娘—— 国枝史郎 何とも云えぬ物凄い睨視! 海賊赤格子九郎右衛門が召捕り処刑になったのは寛延《かんえん》二年三月のことで、所は大阪千日前、弟七郎兵衛、遊女かしく、三人同時に斬られたのである。訴え人は駕籠屋重右衛門。実名船越重右衛門と云えば阿波の大守蜂須賀侯... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 赤格子九郎右衛門—- 国枝史郎 一 江川太郎左衛門、名は英竜、号は坦庵、字は九淵世々韮山の代官であって、高島秋帆の門に入り火術の蘊奥を極わめた英傑、和漢洋の学に秀で、多くの門弟を取り立てたが、中に二人の弟子が有って出藍の誉を謳われた。即ち、一人は川路聖謨、もう一人は佐久... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 生死卍巴—— 国枝史郎 占われたる運命は? 「お侍様え、お買いなすって。どうぞあなた様のご運命を」 こういう女の声のしたのは享保十五年六月中旬の、後夜《ごや》を過ごした頃であった。月が中空に輝いていたので、傍らに立っている旗本屋敷の、家根の甍《いらか》が光って見... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 正雪の遺書—— 国枝史郎 1 丸橋忠弥《まるばしちゅうや》召捕りのために、時の町奉行|石谷左近将監《いしがやさこんしょうげん》が与力同心三百人を率いて彼の邸へ向かったのは、慶安四年七月二十二日の丑刻《うしのこく》を過ぎた頃であった。 染帷《そめかたびら》に鞣革《... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 神秘昆虫館—– 国枝史郎 一 「お侍様というものは……」女役者の阪東|小篠《こしの》は、微妙に笑って云ったものである。「お強くなければなりません」 「俺は随分強いつもりだ」こう答えたのは一式小一郎で、年は二十三で、鐘巻流《かねまきりゅう》の名手であり、父は田安家《た... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 真間の手古奈—— 国枝史郎 一 一人の年老いた人相見が、三河の国の碧海郡の、八ツ橋のあたりに立っている古風な家を訪れました。 それは初夏のことでありまして、河の両岸には名に高い、燕子花《かきつばた》の花が咲いていました。 茶など戴こうとこのように思って、人相見は... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 十二神貝十郎手柄話—– 国枝史郎 ままごと狂女 一 「うん、あの女があれ[#「あれ」に傍点]なんだな」 大|髻《たぶさ》に黒紋付き、袴なしの着流しにした、大兵の武士がこういうように云った。独り言のように云ったのであった。 そこは稲荷堀の往来で、向こうに田... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 秀吉・家康二英雄の対南洋外交 ——国枝史郎 上 仏印問題、蘭印問題がわが国の関心事となり、近衛内閣はそれについて、満支、南洋をつつむ東亜新秩序を示唆する声明を発した。 これに関連して想起されることは、往昔に於ける日本の南洋政策のことである。 × × ... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 首頂戴—— 国枝史郎 一 サラサラサラと茶筌の音、トロリと泡立った緑の茶、茶碗も素晴らしい逸品である。それを支えた指の白さ! と、茶碗が下へ置かれた。 茶を立てたのは一人の美女、立兵庫にお裲襠《かいどり》、帯を胸元に結んでいる。凛と品のある花魁《おいらん》で... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 支那の思出 国枝史郎 私が支那へ行ったのは満洲事変の始まった年の、まだ始まらない頃であった。 上海、南京、蘇州、杭州、青島、旅順、大連、奉天と見て廻った。約一ヶ月を費した。 汽船は秩父丸であった。船がウースン河へ這入《はい》り、岸の楊柳が緑青のような色に萌え... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 三甚内—— 国枝史郎 一 「御用! 御用! 神妙にしろ!」 捕り方衆の叫び声があっちからもこっちからも聞こえて来る。 森然《しん》と更けた霊岸島の万崎河岸の向こう側で提灯の火が飛び乱れる。 「抜いたぞ! 抜いたぞ! 用心しろ」 口々に呼び合う殺気立った声。... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 沙漠の古都—— 国枝史郎 第一回 獣人 一 「マドリッド日刊新聞」の記事…… [#ここから4字下げ] 怪獣再び市中を騒がす。 [#ここから1字下げ] 去月十日午前二時燐光を発する巨大の怪獣|何処《いずこ》よりともなく市中に現われ通行の人々を脅かし府... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 今昔茶話—— 国枝史郎 今昔茶話 国枝史郎 一 風見章さんのこと 前司法大臣風見章閣下、と、こう書くと、ずいぶん凄いことになって、僕など手がとどかないことになる。しかし、前大阪朝日新聞記者風見章、と、こう書くと、僕といえども気安くもの[#「もの」に傍点]が云え... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 高島異誌—– 国枝史郎 妖僧の一泊 「……ええと、然らば、匁という字じゃ、この文字の意義ご存知かな?」 本条純八はやや得意気に、旧《ふる》い朋友の筒井松太郎へ、斯う改めて訊いて見た。二人は無聊のつれづれから、薄縁《うすべり》を敷いた縁側へ、お互にゴロリと転りなが... 2019.05.12 国枝史郎
国枝史郎 高島異誌—— 国枝史郎 妖僧の一泊 「……ええと、然らば、匁という字じゃ、この文字の意義ご存知かな?」 本条純八はやや得意気に、旧《ふる》い朋友の筒井松太郎へ、斯う改めて訊いて見た。二人は無聊のつれづれから、薄縁《うすべり》を敷いた縁側へ、お互にゴロリと転りなが... 2019.05.12 国枝史郎