「近松秋江」の記事一覧

別れたる妻に送る手紙—— 近松秋江
 拝啓  お前――別れて了ったから、もう私がお前と呼び掛ける権利は無い。それのみならず、風の音信《たよ…
箱根の山々—– 近松秋江
 夏が來て、また山の地方を懷かしむ感情が自然に私の胸に慘んでくるのを覺える。何といつても山を樂しむ…
霜凍る宵—– 近松秋江
     一  それからまた懊悩《おうのう》と失望とに毎日|欝《ふさ》ぎ込みながらなすこともなく日を…
雪の日—– 近松秋江
 あまり暖いので、翌日は雨かと思って寝たが、朝になってみると、珍らしくも一面の銀世界である。鵞鳥《…
黒髪—– 近松秋江
     一  ……その女は、私の、これまでに数知れぬほど見た女の中で一番気に入った女であった。どうい…
湖光島影 琵琶湖めぐり—— 近松秋江
 比叡山《ひえいざん》延暦寺《えんりやくじ》の、今、私の坐つてゐる宿院の二階の座敷の東の窓の机に凭…
狂乱—– 近松秋江
     一  二人の男の写真は仏壇の中から発見されたのである。それが、もう現世にいない人間であるこ…
伊賀國—– 近松秋江
 伊賀國は小國であるけれども、この國に入るには何方からゆくにも相應に深い山を踰《こ》えねばならぬ。…
伊賀、伊勢路—– 近松秋江
 私には、また旅を空想し、室内旅行をする季節となつた。東京の秋景色は荒寥としてゐて眼に纏りがない。…
うつり香—– 近松秋江
 そうして、それとともにやる瀬のない、悔しい、無念の涙がはらはらと溢《こぼ》れて、夕暮の寒い風に乾…