「2019年5月」の記事一覧

山の秋—— 高村光太郎
 山の秋は旧盆のころからはじまる。  カッコーやホトトギスは七月中旬になるともう鳴かなくなり、何とな…
九代目団十郎の首—— 高村光太郎
 九代目市川団十郎は明治三十六年九月、六十六歳で死んだ。丁度幕末からかけて明治興隆期の文明開化時代…
気仙沼—— 高村光太郎
女川から気仙沼へ行く気で午後三時の船に乗る。軍港の候補地だといふ女川湾の平和な、澄んだ海を飛びかふ…
顔—— 高村光太郎
顔は誰でもごまかせない。顔ほど正直な看板はない。顔をまる出しにして往来を歩いている事であるから、人…
開墾—— 高村光太郎
 私自身のやつてゐるのは開墾などと口幅つたいことは言はれないほどあはれなものである。小屋のまはりに…
回想録—— 高村光太郎
   一  私の父は八十三で亡くなった。昭和九年だったから、私の何歳の時になるか、私は歳というものを…
黄山谷について—- 高村光太郎
平凡社の今度の「書道全集」は製版がたいへんいいので見ていてたのしい。それに中国のも日本のも典拠の正…
ミケランジェロの彫刻写真に題す ——-高村光太郎
 ミケランジェロこそ造型の権化である。  造型の中の造型たる彫刻は従ってミケランジェロの生来を語るも…
ヒウザン会とパンの会——- 高村光太郎
 私が永年の欧洲留学を終えて帰朝したのは、たしか一九一〇年であった。  当時、わが洋画界は白馬会の全…
(私はさきごろ)—– 高村光太郎
 私はさきごろミケランジェロの事を調べたり、書いたりして数旬を過ごしたが、まったくその中に没頭して…
罠に掛った人 甲賀三郎
        一  もう十時は疾《と》くに過ぎたのに、妻の伸子《のぶこ》は未《ま》だ帰って来なかっ…
徹底的な浜尾君—— 甲賀三郎
 浜尾四郎君は鋭い頭の持主であった。それに卑しくも曖昧な事を許して置けない性質で、何事でも底まで追…
蜘蛛—— 甲賀三郎
 辻川博士の奇怪な研究室は葉の落ちた欅《けやき》の大木にかこまれて、それらの木と高さを争うように、…
青服の男—— 甲賀三郎
          奇怪な死人  別荘――といっても、二昔《ふたむかし》も以前《まえ》に建てられて、近…
真珠塔の秘密—— 甲賀三郎
        一  長い陰気な梅雨が漸《ようや》く明けた頃、そこにはもう酷《きび》しい暑さが待ち設…
支倉事件 甲賀三郎
          呪の手紙  硝子《ガラス》戸越しにホカ/\する日光を受けた縁側へ、夥《おびたゞ》…
血液型殺人事件—— 甲賀三郎
     忍苦一年  毛沼《けぬま》博士の変死事件は、今でも時々夢に見て、魘《うな》されるほど薄気味…
計略二重戦 少年密偵—– 甲賀三郎
   隠れた助力者  道雄少年のお父さんは仁科猛雄《にしなたけお》と云って、陸軍少佐です。しかし、仁…
黄鳥の嘆き ――二川家殺人事件 —–甲賀三郎
          一  秘密の上にも秘密にやった事だったが、新聞記者にかゝっちゃ敵《かな》わない、…
愛の為めに—— 甲賀三郎
夫の手記  私はさっきから自動車を待つ人混みの中で、一人の婦人に眼を惹かれていた。  年の頃は私と同…