「梶井基次郎」の記事一覧

筧の話—– 梶井基次郎
 私は散歩に出るのに二つの路を持っていた。一つは渓《たに》に沿った街道で、もう一つは街道の傍から渓…
檸檬—– 梶井基次郎
 えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終|圧《おさ》えつけていた。焦躁《しょうそう》と言おうか、嫌…
奎吉—– 梶井基次郎
「たうとう弟にまで金を借りる樣になつたかなあ。」と奎吉は、一度思ひついたら最後の後悔の幕迄行つて見…
路上—– 梶井基次郎
 自分がその道を見つけたのは卯《う》の花の咲く時分であった。  Eの停留所からでも帰ることができる。…
矛盾の樣な眞實—–梶井基次郎
「お前は弟達をちつとも可愛がつてやらない。お前は愛のない男だ。」  父母は私によくそ[#「そ」に「(…
橡の花 ――或る私信―― ——梶井基次郎
一  この頃の陰鬱な天候に弱らされていて手紙を書く気にもなれませんでした。以前京都にいた頃は毎年のよ…
冬の蠅—– 梶井基次郎
 冬の蠅《はえ》とは何か?  よぼよぼと歩いている蠅。指を近づけても逃げない蠅。そして飛べないのかと…
冬の日—– 梶井基次郎
     一  季節は冬至に間もなかった。堯《たかし》の窓からは、地盤の低い家々の庭や門辺に立ってい…
泥濘 —–梶井基次郎
     一  それはある日の事だった。――  待っていた為替《かわせ》が家から届いたので、それを金に…
太郎と街—– 梶井基次郎
 秋は洗ひたての敷布《シーツ》の樣に快かつた。太郎は第一の街で夏服を質に入れ、第二の街で牛肉を食つ…
蒼穹—— 梶井基次郎
 ある晩春の午後、私は村の街道に沿った土堤の上で日を浴びていた。空にはながらく動かないでいる巨《お…
淺見淵君に就いて—梶井基次郎
私は淺見君にはまだ數へる程しか會つたことのない間柄である。隨つて淺見君に就いては知ることが非常に尠…
川端康成第四短篇集「心中」を主題とせるヴァリエイシヨン ———梶井基次郎
 彼が妻と七才になる娘とを置き去りにして他郷へ出奔してから、二年になる。その間も、時々彼の心を雲翳…
雪後—– 梶井基次郎
     一  行一が大学へ残るべきか、それとも就職すべきか迷っていたとき、彼に研究を続けてゆく願い…
青空同人印象記(大正十五年六月號) 『青空』記事 —–梶井基次郎
忽那に就て  忽那はクツナと讀む。奇妙な名だ。こんな話がある。高等學校では彼も教場を下駄穿きで歩く方…
城のある町にて—– 梶井基次郎
ある午後 「高いとこの眺めは、アアッ(と咳《せき》をして)また格段でごわすな」  片手に洋傘《こうも…
詩集『戰爭』—– 梶井基次郎
私は北川冬彦のやうに鬱然とした意志を藏してゐる藝術家を私の周圍に見たことがない。  それは彼の詩人的…
講演會 其他(大正十五年二月號) 『青空』記事 —–梶井基次郎
舊臘二十三日私達は大津の公會堂で青空の講演會を開くことになつてゐた。講演會の直接の目的は讀者を殖す…
交尾—— 梶井基次郎
その一  星空を見上げると、音もしないで何匹も蝙蝠《こうもり》が飛んでいる。その姿は見えないが、瞬間…
器楽的幻覚—– 梶井基次郎
 ある秋|仏蘭西《フランス》から来た年若い洋琴家《ピアニスト》がその国の伝統的な技巧で豊富な数の楽…