「葛西善蔵」の記事一覧

蠢く者—– 葛西善藏
 父は一昨年の夏、六十五で、持病の脚氣で、死んだ。前の年義母に死なれて孤獨の身となり、急に家財を片…
遊動円木—– 葛西善蔵
 私は奈良にT新夫婦を訪ねて、一週間ほど彼らと遊び暮した。五月初旬の奈良公園は、すてきなものであっ…
父の葬式—– 葛西善蔵
 いよいよ明日は父の遺骨を携《たずさ》えて帰郷という段になって、私たちは服装のことでちょっと当惑を…
父の出郷—– 葛西善蔵
 ほんのちょっとしたことからだったが、Fを郷里の妻の許《もと》に帰してやる気になった。母や妹たちの…
浮浪—– 葛西善蔵
     一 「また今度も都合で少し遅くなるかも知れないよ。どこかへ行つて書いて来るつもりだから……」…
不良兒—– 葛西善藏
 一月末から一ヶ月半ほど、私は東京に出てゐた。こんなことは今度が初めてと云ふわけではないので、私は…
遁走—— 葛西善蔵
一  神田のある会社へと、それから日比谷の方の新聞社へ知人を訪ねて、明日の晩の笹川の長編小説出版記念…
椎の若葉—— 葛西善藏
 六月半ば、梅雨晴《つゆば》れの午前の光りを浴びてゐる椎《しひ》の若葉の趣《おもむき》を、ありがた…
死児を産む—– 葛西善蔵
 この月の二十日前後と産婆に言われている大きな腹して、背丈がずんぐりなので醤油樽《しょうゆだる》か…
子をつれて—– 葛西善藏
一  掃除をしたり、お菜《さい》を煮たり、糠味噌を出したりして、子供等に晩飯を濟まさせ、彼はやうやく…
湖畔手記—– 葛西善藏
 たうとうこゝまで逃げて來たと云ふ譯だが――それは實際悲鳴を揚げながら――の氣持だつた。がさて、これか…
血を吐く—– 葛西善藏
おせいが、山へ來たのは、十月二十一日だつた。中禪寺からの、夕方の馬車で着いたのだつた。その日も自分…
奇病患者—– 葛西善藏
 薪の紅く燃えてゐる大きな爐の主座《よこざ》に胡坐を掻いて、彼は手酌でちび/\盃を甞めてゐた。その…
贋物 —–葛西善蔵
一  車掌に注意されて、彼は福島で下車した。朝の五時であった。それから晩の六時まで待たねばならないの…
哀しき父—– 葛西善藏
       一  彼はまたいつとなくだん/\と場末へ追ひ込まれてゐた。  四月の末であつた。空には…
おせい—– 葛西善藏
「近所では、お腹《なか》の始末でもしに行つたんだ位に思つてゐるんでせう。さつきも柏屋のお内儀さんに…