佐々木味津三

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右門捕物帖 死人ぶろ ——佐々木味津三

1  その第三十三番てがらです。  朝ごとに江戸は深い霧でした……。  これが降りるようになると、秋が近い。秋が近づくと、江戸の町に景物が決まって二つふえる。角兵衛獅子《かくべえじし》に柳原お馬場の朝げいこ、その二つです。  トウトウトウト...
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右門捕物帖 朱彫りの花嫁—— 佐々木味津三

1  その第三十二番てがらです。  ザアッ――と、刷毛《はけ》ではいたようなにわか雨でした。空も川も一面がしぶきにけむって、そのしぶきが波をうちながら、はやてのように空から空へ走っていくのです。  まことに涼味|万斛《ばんこく》、墨田の夏の...
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右門捕物帖 毒を抱く女—— 佐々木味津三

1  その三十一番です。  江戸城、内濠《うちぼり》の牛《うし》ガ淵《ふち》。――名からしてあんまり気味のいい名まえではない。半蔵門から左へつづいたあの一帯が、今もその名の伝わる牛ガ淵ですが、むかしはあれを隠し井の淵ともいって、むしろそのほ...
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右門捕物帖 闇男—— 佐々木味津三

1  ――その第三十番てがらです。  事の起きたのは新緑半ばの五月初め。  さみだれにかわずのおよぐ戸口かな、という句があるが、これがさみだれを通り越してつゆになったとなると、かわずが戸口に泳ぐどころのなまやさしいものではない。へそまでもか...
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右門捕物帖 開運女人地蔵—– 佐々木味津三

1  その第二十九番てがらです……。  事の起きたのは四月初め。――もう春も深い。  小唄《こうた》にも、浮かれ浮かれて大川を、下る猪牙《ちょき》船影淡く、水にうつろうえり足は、紅の色香もなんじゃやら、エエまあ憎らしいあだ姿、という穏やかで...
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右門捕物帖 お蘭しごきの秘密— 佐々木味津三

1  ――その第二十八番てがらです。 「一ツ、三月十二日。チクショウメ、ふざけたまねをしやがる。女ノ女郎めが、不忍《しのばず》弁天サマ裏ニテ、お参リノ途中、腰ニ結ンデおったる、シゴキを盗み取られたとなり。くやしいが、ベッピンなり。昼間のこと...
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右門捕物帖 献上博多人形—— 佐々木味津三

1  ――その第二十七番てがらです。  場所は芝。事の起きたのは、お正月も末の二十四日でした。風流人が江戸雪といったあの雪です。舞いだしたとなると、鉄火というか、伝法というか、雪までがたいそうもなく江戸前に気短なところがあって、豪儀といえば...
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右門捕物帖 七七の橙 ——佐々木味津三

1  その第二十六番てがらです。  物語の起きたのは年改まった正月のそうそう。それも七草がゆのその七日の朝でした。起きても御慶、寝ても御慶の三カ日はとうにすぎたが、なにしろまだめでたいし、松の内はお昼勤めとお許しの出ているその出仕には時刻が...
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右門捕物帖 卒塔婆を祭った米びつ——- 佐々木味津三

1  その第二十五番てがらです。  事の起きたのは仲秋|上浣《じょうかん》。  鳶《とび》ノ巣山《すやま》初陣《ういじん》を自慢の大久保|彦左《ひこざ》があとにも先にもたった一度|詠《よ》んだという句に、 「おれまでが朝寝をしたわい月の宿」...
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右門捕物帖 のろいのわら人形 佐々木味津三

1  ――その第二十四番てがらです。  時は八月初旬。むろん旧暦ですから今の九月ですが、宵々《よいよい》ごとにそろそろと虫が鳴きだして、一年十二カ月を通じ、この月ぐらい人の世が心細く、天地|蕭条《しょうじょう》として死にたくなる月というもの...
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右門捕物帖 幽霊水 ——佐々木味津三

1  その二十三番てがらです。  時は真夏。それもお盆のまえです。なにしろ暑い。旧暦だからちょうど土用さなかです。だから、なおさら暑い。 「べらぼうめ、心がけが違うんだ、心がけがな。おいらは日ごろ善根を施してあるんで、ちゃあんとこういうとき...
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右門捕物帖 因縁の女夫雛—– 佐々木味津三

1  ――その第二十二番てがらです。  場所は少しく飛んで、いわゆる江戸八宿のうちの一つの新宿。竹にすずめは仙台《せんだい》侯、内藤様は下がり藤《ふじ》、と俗謡にまでうたわれたその内藤駿河守《ないとうするがのかみ》の広大もないお下屋敷が、街...
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右門捕物帖 妻恋坂の怪—— 佐々木味津三

1  ――その第二十一番てがらです。  事件の起きたのは、年を越して、それも松の内の二日《ふつか》。 「めでたさも中ぐらいなりおらが春」――というのが俳諧寺一茶《はいかいじいっさ》の句にありますが、中ぐらいでも、下の下の下々であっても、やり...
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右門捕物帖 千柿の鍔 ——佐々木味津三

1  その第二十番てがらです。  事の端を発しましたのは、ずっと間をおいて十一月下旬。奇態なもので、寒くなると決まってこがらしが吹く。寒いときに吹く風なんだから、こがらしが吹いたとてなんの不思議もないようなものなんだが、江戸のこがらしとなる...
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右門捕物帖 袈裟切り太夫—— 佐々木味津三

1  ――このたびはその第十九番てがら。  前回の名月騒動が、あのとおりあっけなさすぎるほどぞうさなくかたづきましたので、その埋め合わせというわけでもありますまいが、事の端を発しましたのは、あれから五日とたたないまもなくでした。もちろん旧暦...
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右門捕物帖 明月一夜騒動 —–佐々木味津三

1  右門|捕物《とりもの》第十八番てがらです。  事の勃発《ぼっぱつ》いたしましたのは九月中旬。正確に申しますると、十三日のことでしたが、ご存じのごとくこの日は、俗に豆名月と称するお十三夜のお月見当夜です。ものの本によると、前の月、すなわ...
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右門捕物帖 へび使い小町 —–佐々木味津三

1  ――ひきつづき第十七番てがらに移ります。  前回の七化け騒動がそもそも端を発しましたところは品川でしたが、今回はその反対の両国|河岸《がし》。しかも、事件の勃発《ぼっぱつ》した日がまたえりにえって七月の七日。七日と申しますと、だれしも...
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右門捕物帖 七化け役者—— 佐々木味津三

1  ――ひきつづき第十六番てがらにうつります。  事件の勃発《ぼっぱつ》いたしましたのは、五月のちょうど晦日《みそか》。場所は江戸第一の関門である品川の宿、当今の品川はやけにほこりっぽいばかりで、さざえのつぼ焼きのほかは、あってもなくても...
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右門捕物帖 京人形大尽—— 佐々木味津三

1  ――前章の化け右門事件で、名人右門の幕下に、新しく善光寺|辰《たつ》なる配下が一枚わき役として加わり、名人、伝六、善光寺辰と、およそ古今に類のない変人ぞろいの捕物《とりもの》陣を敷きまして、いと痛快至極な捕物さばきに及びましたことはす...
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右門捕物帖 曲芸三人娘 佐々木味津三

1  ――だんだんと回数を重ねまして、名人の捕物帳《とりものちょう》もいよいよ今回は第十四番てがらとなりましたが、目のあるところには珠《たま》が寄るのたとえで、ご番所のご記録帳によりますと、なんとも愉快千万なことには、この十四番てがらから、...